夕方のキッチン。
赤ちゃんの泣き声が響き、私は抱っこひもを急いで肩にかける。
その横で、長女が静かに見ている。
「まってるね」――
その一言に、胸の奥がじんと熱くなった。
- 1. “待たせてしまう”からはじまる
- 2. 小さな変化に気づくとき
- 3. 言葉を変えた日
- 4. まねをして育つ力
- 5. 「まってるね」に込められたもの
- 6. 夜の反省と、朝の希望
- 7. “待てる子”の強さ
- 8. 小さな手が教えてくれたこと
- 9. おわりに
1. “待たせてしまう”からはじまる
下の子が生まれてから、
毎日がまるでパズルのように時間で埋め尽くされた。
授乳、おむつ替え、寝かしつけ、洗濯。
そこに「ママ見て!」や「一緒にあそぼ!」の声が重なる。
上の子を“待たせてしまう”瞬間は、
一日の中で何度も訪れる。
最初のころ、私はそのたびに胸が痛かった。
「ちょっと待ってね」を何度も繰り返しながら、
その言葉が刃物のように感じる日もあった。
でも、少しずつ気づいた。
待たせることは、悪いことばかりじゃない。
それは子どもに“自分の時間”を持たせることでもあると。
2. 小さな変化に気づくとき
ある日、次女を寝かしつけているとき、
長女が隣の部屋で静かに絵本を読んでいた。
ページをめくる音が、かすかに聞こえる。
「おまたせ」と言うと、
「ママ、ねんねできた?」と笑顔で聞いてくれた。
その瞬間、私はようやく気づいた。
“待たされている”時間が、
彼女にとって“考える時間”に変わっていたことを。
待つというのは、ただ我慢することじゃない。
待ちながら、自分の中で小さな物語をつくっていた。
3. 言葉を変えた日
それ以来、私は「ちょっと待ってね」という言葉を
できるだけ「ありがとう、待ってくれて」に変えるようにした。
言葉を変えるだけで、
子どもの表情が少し柔らかくなる。
「まってくれてありがとう」は、
「あなたを信じてるよ」と伝えることでもある。
それを繰り返すうちに、
長女は“待つこと”を、自分の力として受け止めるようになっていった。
4. まねをして育つ力
下の子が泣くと、長女はタオルを持ってきてくれる。
「これでなでなでしていい?」と聞く。
私は「うん、やさしくね」と答える。
彼女は本当にやさしく、そっと触れる。
それを見ながら思う。
このやさしさは、誰かに教えられたものじゃなくて、
“待つ時間”の中で育ったものなんだと。
上の子は、親の背中を見て学ぶと言うけれど、
きっとそれだけではない。
親がいない時間、
抱っこされていない時間にも、
子どもはちゃんと育っている。
5. 「まってるね」に込められたもの
夜、次女を寝かしつけたあと、
リビングで長女が積み木を並べていた。
「ママ、まってたよ」と言う。
その声に、泣きそうになる。
“まってるね”という言葉の中には、
小さな寂しさと、大きな信頼が同居している。
待つことは、愛のかたちのひとつ。
私がどんなにバタバタしていても、
彼女は「ママはちゃんと戻ってくる」と信じている。
その信頼に支えられているのは、実は私の方だ。
6. 夜の反省と、朝の希望
夜、子どもたちが寝静まると、
私はキッチンの片隅で静かにコーヒーを飲む。
今日も、上の子をたくさん待たせてしまった。
「また“ちょっと待って”って言っちゃったな」と思う。
でも、朝になると、彼女は笑って起きてくる。
「ママ、おはよう」と言って、
当たり前のように隣に座る。
その笑顔を見るたびに思う。
子どもの愛情は、思っているよりずっと広くて、深い。
7. “待てる子”の強さ
ある日、公園のブランコで順番を待っている長女を見かけた。
少し年上の子たちが先に乗っていて、
彼女はただ静かにその様子を見ていた。
「まだ乗れないの?」と聞くと、
「だいじょうぶ、まってる」と笑った。
その表情に、私は泣きそうになった。
家の中だけでなく、外の世界でも、
ちゃんと“待てる力”を使っている。
それは、親が与えた言葉ではなく、
彼女自身が時間の中で掴んだ強さ。

8. 小さな手が教えてくれたこと
下の子を寝かせたあと、
長女がそっと毛布をかけてくれる。
「ねんねできたね」とつぶやく声が、
夜の静けさに溶けていく。
その横顔を見ながら思う。
“待つ”って、静かな愛の練習なのかもしれない。
親もまた、子どもを信じて待つ。
子どもも、親を信じて待つ。
お互いが少しずつその距離を覚えていく。

9. おわりに
2歳差育児は、毎日が揺れる。
泣き声と笑い声が交じり合い、
抱っこと「待ってね」が同じ部屋で響く。
でも、その中に確かに育っているものがある。
それは、上の子の“待てる力”であり、
親の“信じる力”でもある。
「まってるね」という言葉は、
小さな子どもが発した最初の思いやり。
その言葉を聞くたびに、
私は少しずつ救われていく。
彼女の成長を見守りながら、
私もまた、誰かを待てる人になりたいと思う。
最後までお読みいただきありがとうございました📚